砂時計と絵の具

2025年7月9日(水)〜7月22日(火)
10:00〜19:00

過去の私は誰からも好かれるキャラをつくり続けるような人の目を気にする少年。その少年が自分を見失い途方にくれた時に絵の具に出会った。
絵の具の動きが初めて私の気持ちを表現してくれた。
「砂時計と絵の具」では「私」が絵を描くことによって新しい一歩を踏み出せたきっかけの物語。

諒(まこと)
1999 年香美市出身。
絵の具に半年前に出会う。普段はみかん、休みは貝殻の収集している。

展覧会レビュー

Gallery Eで開催中の諒による個展「砂時計と絵の具」は、描くことの始まりにある衝動、そして終わらせずに持ち続ける時間との対峙をテーマにしている。

諒の作品において、絵画は計画された表現ではなく、避けがたく「出てきてしまったもの」に近い。本人もインタビューのなかで「もともと絵を描いてこなかった」と語っているが、それだけに、描くという行為に向かうきっかけがどれも切実で、嘘がない。

展示室の床に無造作に置かれた紙片たちは、パレットとして、もしくは衝動のはけ口として使われた痕跡を残している。色が濁ることを嫌いながらも混ぜ続けた絵の具が、乾かないまま視線を引き寄せる。それは、意図ではなく実感から始まった制作の証拠でもある。

壁面に掛けられた赤い楕円形のモチーフを持つ作品は、自画像的でありながら匿名性も帯びており、「自己を描く」ことの危うさと強さを同時に宿している。見る者はそこに“目”のようなものを見出し、逆に見つめ返されるような感覚に陥るだろう。

また、椅子の上に置かれた手書きの文章が、本展のもう一つの軸を担う。丁寧に綴られた原稿用紙は、感情の流れをそのまま残す絵の具とは対照的に、時間の堆積を示す“砂時計”のようでもある。ここにもまた、諒の表現は「自分の言葉と手」でしか行わないという姿勢が貫かれている。

そしてなにより、本展に通底するのは“未完成”を肯定するまなざしだ。イーゼルにかかったままの作品、床に落ちたままの紙、片付けられない制作の残骸。それらはすべて、「描くことはまだ終わっていない」という意思の現れとして提示されている。

砂時計が落ちきる前に、絵の具はまだ乾いていない。
諒の作品群は、そんな不確かで美しい時間の中に静かに佇んでいる。